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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)178号 判決

大阪府守口市京阪本通2丁目5番5号

原告

三洋電機株式会社

代表者代表取締役

高野泰明

訴訟代理人弁護士

高村一木

野上邦五郎

杉本進介

冨永博之

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

手島聖治

下野和行

吉村宅衛

小林和男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第21013号事件について、平成7年4月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年12月27日、名称を「無整流子電動機」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、特許出願(特願昭57-228893号)をしたが、平成4年9月22日に拒絶査定を受けたので、同年11月12日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成4年審判第21013号事件として審理したうえ、平成7年4月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月28日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

永久磁石を有する回転子と、この回転子に回転磁界を与える複数の歯と、夫々の歯に巻かれた三相の固定子巻線とを有する無整流子電動機において、固定子巻線の通電組合せを非通電となる相が常に1相生じるように組合せ、回転子の回転時に非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換えるように構成し、前記歯の数を3×n(nは2以上の整数)に構成すると共に、前記固定子巻線を隣同士の歯が異相で、かつ全波通電が可能に三相結線することを特徴とする無整流子電動機。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭54-125418号公報(以下「引用例1」という。)及び特開昭52-29917号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下、引用例1に記載された発明を「引用例発明1」といい、引用例2に記載された発明を「引用例発明2」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1の記載事項のうち「全波通電が可能に」(審決書3頁20行)を除く認定、引用例2の記載事項の認定の一部(同4頁20行~5頁9行)、本願発明と引用例発明1との一致点のうち「全波通電が可能に」(同6頁19行)を除く認定及び相違点の認定は、いずれも認める。

審決は、引用例発明1及び2の技術内容を誤認する(取消事由1、2)とともに、両発明が容易に組み合わせられると判断を誤り(取消事由3)、本願発明の有する顕著な作用効果を看過した(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  引用例発明1の誤認(取消事由1)

審決は、引用例1に、15の突極を有し、駆動コイルの常時二相に三相全波通電が行われる回路構成を有する無整流子電動機が記載されていると認定した(審決書3頁3行~4頁3行)。しかし、15の突極を有する無整流子電動機として引用例1に記載されている実施例の装置は、低速高速を問わず全波通電である本願発明と異なり、低速回転時の上記認定の回路と、高速回転時のコイルの一相に三相半波通電が行われる回路とを一体とした回路構成であるから、低速、高速いずれの場合も回路構成が全波通電であるという説明を引き出すことはできない。しかも、上記認定を行うについては、元の装置を変更、省略又は付加した装置、すなわち、低速回転時だけを取り出した装置において、歯を15とすることが必要条件であることの理由づけが必要となるはずである。

この点について、審決は、引用例1における従来技術の示唆に基づき、前記実施例と同様15歯でその回路構成が全波通電であるものも記載されていると認定した(審決書4頁10~16行)。しかし、審決が指摘する引用例1の部分(甲第3号証1頁2欄4、5行)には、従来技術として「プレイ時、早巻時共に同一の駆動方式では」という記載はあるが、その同一の駆動方式というのが全波通電であるという記載はない。また、「低速回転時の駆動回路にトランジスタQ13を付加しただけであり、構造も簡単である(同号証3頁7欄2、3行)との記載も、引用例発明1の実施例の回路構成が簡単であると述べているだけで、この説明自体から、従来例の回路構成が低速、高速いずれの場合も全波通電であるという説明を引き出すことはできない。

被告は、引用例発明1の回路構成が、技術文献である「サイリストモータの原理と運転」(株式会社電気書院発行、乙第1号証、以下「本件文献」という。)に示されるように、周知のものであるから、低速回転時の全波通電の回路構成を引用することに誤りはないと主張する。しかし、審決は、引用例発明1を、15の突極(歯)を有する無整流子電動機の回路構成として引用するものであるのに対し、本件文献に記載された無整流子電動機は、3歯2極のものであり(乙第1号証33頁第1・32図(c))、3歯2極の無整流子電動機の回路構成として周知であるからといって、引用例発明1を右周知の回路構成に変更した装置においても、15歯が必要であるという理由づけにならないことは明らかである。

以上のように、審決及び被告による前記変更省略についての理由づけは、その変更省略された装置においても歯が15であることの理由づけとなるものではない。したがって、審決が、前記引用例発明1の認定を前提として、これに引用例発明2の位置検出装置を組み合わせることは、誤りというべきである。

2  引用例発明2の誤認(取消事由2)

(1)  引用例発明2は、その発明の目的、装置構成及び動作態様が極めて不明瞭のため、審決認定のとおりの構成が記載されているとはいえず、また、その構成自体も本願発明の対応する構成とは異なるものである。したがって、審決が、引用例2について、「相違点をなす本願発明の態様、すなわち、回転位置に応じた位置検出信号を非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧によって生成する態様が記載されている」(審決書7頁11~14行)と認定したことは、誤りである。

すなわち、引用例発明2は、その発明の目的、構成及び作用効果が極めて不明瞭のため、特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていないとして、審査段階で拒絶理由通知を受けたものであり(甲第17号証)、特に重要な問題点は、位置検出装置の制御電極制御装置の処理の内容が記載されていないために、固定点(甲第4号証4頁第5図のP点)の判断からどのようにして切換え信号(制御信号)を求めるのか不明なことである。そして、この問題点は、大幅な明細書の補正、図面の追加により理解可能なものとなったのであり、この補足の説明のない状態においてな、引用例発明2が実施可能な程度に記載されているとみることはできない。

(2)  仮に、引用例発明2に審決が認定する位置検出装置が記載されているとしても、これは、本願発明の「回転子の回転時に非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換えるよう構成し」たものではないから、これを本願発明の位置検出装置と同一ということはできない。

すなわち、本願発明の固定子巻線の通電組合せの切換えは、非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧の変化と、この変化に基づいて得られる時間を直接の作動要因として切り換えられ、通電組合せの切換えが、すべて「非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて」切り換えられるものである。

これに対し、引用例発明2における、従来例とは異なる通電組合せの切換えの構成は、通電、非通電の全区間にわたる端子電圧VA、VB、VCと中性点電圧VNとの大小を各々比較して出力された比較信号C1、C2、C3を処理し、それによって得られる信号により固定子巻線の通電組合せを切り換えるものであり、通電、非通電の全区間にわたる端子電圧と中性点電圧との比に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換える構成であるといえる(甲第6号証3頁左上欄14~16行、同頁右上欄8~14行との記載並びに第6及び第7図)。

以上のように、固定子巻線の通電組合せの切換えの構成は、本願発明では、「非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換えるのに対し、引用例発明2では、「通電、非通電の全区間にわたる端子電圧と中性点電圧との比較に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換える」のであるから、この両者は、明確に相違するのである。

3  引用例発明1及び2の組合せの困難性(取消事由3)

仮に、審決に引用例発明1及び2の誤認がないとしても、審決が、「引用例1に記載された発明における前記態様に換えて、引用例2に記載された前記態様を採用して本願発明をなすことは、前記のような別途設けた位置検出手段の出力によって生成する態様のもつ不都合を解消したいという要請次第であり、これを要するに、設計上の必要に応じて当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。」(審決書7頁18行~8頁5行)と判断したことは、誤りである。

なぜなら、引用例発明1及び2を総合して形成される発明(以下「総合発明」という。)において、その目的を示唆するはずの両引用例の記載は、必ずしも合致するものではなく、また、引用例発明1の特徴的な機能を維持しつつ引用例発明2の位置検出装置を組み込もうとすると、その回路構成は極めて難解となり、当業者の発明的創意なくしてはこれを示すことができないから、結局、総合発明を形成することは、当業者が容易になし得ることではないといえる。

まず、引用例発明1の目的は、主としてテープレコーダのリールモータとして利用される無整流子モータにおいて、低速回転時には高速回転時と比較して利用コイル数を多くすることにより、高速回転時の回転速度を落とすことなく低速回転時の効率をよくすることを目的とするものである(甲第3号証1頁左下欄17行~同頁右下欄16行)。これに対し、引用例発明2は、無整流子電動機の従来の位置検出装置に用いられる検出素子において、特に高速回転を行う際に特性の不揃いにより運転特性の相当な悪化を招くという欠点と、結線の複雑さという欠点があったことから、これらの欠点を除いた位置検出装置を提供することを目的とするものである(甲第4号証2頁左上欄4行~同頁右下欄9行、同頁右下欄6~13行)。

上記の引用例2の記載からすると、引用例発明1の実施例の装置が機能上重点をおいている低速回転時においては、検出素子に多少不揃いがあっても運転特性への影響は少ないと解され、位置検出装置の置換えは不必要と理解される。また、引用例発明2が技術課題の対象とする高速回転時には、引用例発明1の誘起電圧が常に一相に生じるのに対し、引用例発明2の検出回路は、二相にわたって生じる点で相違するから、引用例発明1の装置において引用例発明2の指摘する運転特性の効率化は、関係がないことになる。

また、技術的にみても、引用例発明1の実施例の装置の位置検出装置を、引用例発明2の位置検出装置に置き換えることは極めて困難である。すなわち、引用例発明1の実施例の特徴的機能は、ワウフラッタの低減であることが明らかであるところ、その低減方法は、電圧電流変換器を用いるものであるから、この電圧電流変換器は、必須の構成要素と考えられるが、この特徴的機能を前提として引用例発明2の位置検出装置を置き換えるには、新たな回路設計が必要であり、当業者にとって容易なこととはいえない。

顕著な作用効果の看過(取消事由4)

仮に、引用例発明1及び2の認定に誤認がなく、その組合せが容易であったとしても、両発明を組み合わせた総合発明について、当業者は、誘起電圧を大きく取り出せるという本願発明の有する願著な作用効果を見出すことはできない。

すなわち、本願発明の要旨である、固定子巻線の歯を3×n(nは2以上の整数)とする構成は、歯数6本又は9本とする場合において最も有効に誘起電圧を取り出すことができ、低速回転時や急激な負荷増加で回転数が低下したときでも安定したゲート信号を得ることが可能であり、固定子巻線への通電を確実に制御できるという作用効果を有するものである。

これに対し、総合発明は、15の固定子巻線の歯を有するものであり、本願発明の固定子巻線の歯3×n(nは2以上の整数)のうちn=5の場合と同じではあるが、歯数を15とする構成の場合は、誘起電圧の取出しが従来より大きく、歯数6又は9の場合に比べて銅損の減少が多少大きくなる反面、運転効率が悪くなるなどマイナス面が増える。つまり、電動機として総合的にみるならば、歯数は6又は9が最も適当であり、本願発明の固定子巻線の歯数を3×n(nは2以上の整数)とする構成と、総合発明の歯数を15とする構成とは、一見構成を同じくするように見えても作用効果は著しく異なり、その結果、構成についても本質的には異なるものであるということができる。

したがって、審決が、「全体としてみた本願発明の効果も、各引用例に記載された発明から当業者であれば予想できる程度のものである。」(審決書8頁6~8行)と判断したことは、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

原告は、引用例発明1が、低速回転時の駆動コイルの常時二相に三相全波通電する回路と、高速回転時のコイルの一相に三相半波通電が行われる回路とを一体とした回路構成であるから、低速、高速いずれの場合も回路構成が全波通電であるという説明を引き出すことはできないと主張する。

しかし、高速通電方式と低速通電方式とでは、電流を流すコイル及びトルクに関して異なる特性を有し、かつ、トランジスタQ13のオン・オフ接続構成を有することから、上記両方式は、それぞれ別個の回路構成を有することが明らかであるので、引用例発明1が、両通電方式を一体として含む回路構成であるとする原告の主張は失当である。そして、全波通電だけをするものも、引用例1に従来技術として記載されていることは、審決の認定(審決書4頁11~16行)のとおりである。

なお、引用例発明1の回路構成ように、全波通電によりモータを駆動させることは、本件文献(乙第1号証)で示されるとおり、周知のものであるから、低速回転時の構成を引用することに誤りはない。

また、原告は、引用例発明1において変更省略を行うのであれば、その変更省略された装置において、歯が15であることが必要であることの理由づけが必要であると主張する。

上記の主張は、要するに、15歯のモータについて全波通電と半波通電とを切り換えて駆動する装置が記載されていても、従来技術の装置も15歯であったと認定するためには、15歯であることの理由づけが必要であるというものと解されるが、引用例発明1が、従来技術の欠点を改良したのは駆動方式であり、歯数ではない。引用例発明1における改良の対象ではなく、また、従来技術から変更されたことを示唆する記載もない以上、歯数は、従来技術から変更がないと認定するのは当然である。

したがって、審決の引用例発明1の認定(審決書3頁3行~4頁3行)に、誤りはない。

2  取消事由2について

原告は、引用例発明2は、その発明の目的、構成及び作用効果が極めて不明瞭のため、審査段階で拒絶理由通知を受けたものであり、明細書の補正や図面の追加のない状態においては、引用例発明2が実施可能な程度に記載されているとみることはできないと主張するが、拒絶理由通知には、特許出願における明細書の記載要件に関する判断が記載されているのであって、本願発明の容易性の判断とは何ら関係がない。引用例2には、本願発明を容易に推考することができる程度に構成が記載されている。

また、原告は、引用例発明2は、位置検出装置の制御電極制御装置の処理の内容が記載されていないために、固定点(甲第4号証4頁第5図のP点)の判断からどのようにして切換え信号(制御信号)を求めるのか不明であり、また、本願発明の「非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換える」構成を有するものではないと主張するが、引用例2には、非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいてSCRを制御していることは明記されており、また、固定点Pと切換え信号を出す時点との関係は明記されている。

したがって、審決の引用例発明2の認定(審決書4頁20行~5頁17行)に、誤りはない。

3  取消事由3について

原告は、総合発明において、その目的を示唆するはずの両引用例の記載は、必ずしも合致するものではなく、引用例2の記載からすると、引用例発明1の実施例の装置が機能上重点をおいている低速回転時においては、検出素子に多少不揃いがあっても運転特性への影響は少ないと解され、位置検出装置の置換えは不必要と理解されると主張するが、検出素子を用いなければ、不揃いによる運転特性への影響は更に少なくなるとともに、少なくとも結線の複雑さという欠点は解消できるのであるから、位置検出装置の置換えが不必要であるとはいえない。

また、原告は、引用例発明1の実施例の特徴的機能は、ワウフラッタの低減であることが明らかであるところ、その低減のための電圧電流変換器は、必須の構成要素であるが、この特徴的機能を前提として引用例発明2の位置検出装置を置き換えるには、新たな回路設計が必要であり、当業者にとって容易なことではないと主張するが、実施例の装置の特徴的機能を変えないものである必要はなく、引用例2の技術課題を解決したいという要請次第で、その機能を変えることは容易である。

したがって、審決が、相違点について、当業者が設計上の必要に応じて適宜なし得ることと判断した(審決書7頁10行~8頁5行)ことに、誤りはない。

4  取消事由4について

原告は、本願発明が歯数6本又は9本とする場合において最も有効に誘起電圧を取り出すことができると主張するが、この主張は本願発明の特許請求の範囲に記載に基づくものではなく、失当である。

したがって、審決が、本願発明の効果も、各引用例に記載された発明から当業者であれば予想できる程度のものと判断した(審決書8頁6~8行)ことに、誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例発明1の誤認)について

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1に「界磁マグネット2を有するロータ1と、このロータ1に回転磁界を与える15(3×5)個の突極と、夫々の突極に巻かれた三相の駆動コイルX1、Y1、Z1………X5、Y5、Z5とを有する電子整流子モータ(特に、第1頁右欄末行~第2頁第3欄第6行、図面第1図)において、駆動コイルX1、Y1、Z1………X5、Y5、Z5の通電組合せを非通電となる相が常に1相生じるように組合せ(特に、第2頁第5欄末行~同頁第6欄第5行、図面第3図(a))、ロータ1の回転時に位置検出用ロータ5、位置検出用1次側コイル9、11、13、2次側コイル10、12、14等によって生成された回転位置に応じた位置検出信号に基づいて前記駆動コイルの通電組合せを切り換えるように構成し(特に、第2頁第3欄第7行~同頁第4欄末行、図面第2図)、前記駆動コイルを隣同士の歯が異相で(特に、図面第1図)、・・・三相結線する(特に、第2頁第5欄末行~同頁第6欄第5行、図面第2図、第3図(a))ことを特徴とする電子整流子モータ。」(審決書3頁3行~4頁3行)が記載されていること、引用例発明1の実施例の装置の回路構成として、低速回転時には全波通電、高速回転時には半波通電のものが開示されていることは、当事者間に争いがない。

ところで、引用例1(甲第3号証)には、「リールモータの場合にはプレイ時に大トルクで低速回転、早巻時に小トルクで高速回転が要求され、従来のように、プレイ時、早巻時共に同一の駆動方式では、プレイ時の効率が低下するという欠点があった。これは、低速回転、高速回転の両方の要求を単一の駆動方式で満たそうとするために、低速回転時の効率が犠牲になったのである。低速回転時に、高速回転時に比較して利用コイル数を多くするならば、高速回転時の回転速度をおとすことなく低速回転時の効率を良くできる。本発明は、そのような点を考慮して、簡単に利用コイル数を切換えられる直流モータを提供するものである。」(同号証1頁2欄2~15行)、「トランジスタQ13をオン・オフすることにより、簡単に利用コイル数を変えることができる。また、低速回転時の駆動回路にトランジスタQ13を付加しただけであり、構造も簡単である」(同2頁6欄20行~3頁7欄4行)と記載されている。

これらの記載並びに第1及び第2図(同3頁)によれば、引用例発明1は、高速回転時の回転速度をおとすことなく低速回転時の効率をもよくすることを技術課題として、トランジスタQ13のオン・オフにより利用コイル数を切り換え、モータの高速回転・低速回転の双方を制御するものであり、低速回転時の駆動回路について、利用コイル数を少なくするためのトランジスタQ13を付加し、低速回転時にはこれをオフとし、高速回転時にはこれをオンとするモータの構成を開示するものと認められる。そうすると、当業者が、引用例1に関して、この高速回転時に使用するために付加されたトランジスタを除外し、全波通電を行う低速回転時のモータの構成を1つの技術思想として把握することに格別の困難性はなく、この場合に歯数などのモータの他の構造を変えるべき必然性は考えられないから、その全波通電を行う電子整流子モータの歯数は、上記第1図に開示されるとおり15のものと認識するのが当然といえる。

原告は、審決が指摘する引用例1の記載自体から従来例の回路構成が低速、高速いずれの場合も全波通電であるという説明を引き出すことはできないと主張する。

しかし、前示のとおり、引用例1では、従来から低速回転と高速回転の両方を単一の駆動方式で行っていたことが指摘されるとともに、低速回転時に全波通電を行うモータの構成が1つの技術思想として開示されているから、この全波通電を行う駆動方式のモータは、引用例1が指摘する問題点があるにせよ、低速回転時と高速回転時の双方に使用できることが明らかといえる。したがって、引用例1の記載から、低速、高速いずれの場合も全波通電を行うモータの構成を把握することは可能であり、原告の上記主張を採用することはできない。

また、原告は、引用例発明1においてトランジスタを除外するような変更省略を行うのであれば、その変更省略された装置において、歯が15であることが必要であることの理由づけが必要であると主張する。

しかし、前示のとおり、引用例発明1の全波通電を行うモータの構成として、当業者が、上記第1図に開示される歯数15のものを認識するのは当然のことであり、あえて異なる歯数を想定すべき特段の事情も認められない以上、歯数を15とすることの理由づけが必要であるとする原告の主張は、それ自体失当なものといわなければならない。

したがって、審決が、引用例発明1について、「全波通電が可能に三相結線する」(審決書3頁20行)と判断したことに、誤りはない。

2  取消事由2(引用例発明2の誤認)について

引用例2に、「無整流子電動機における界磁極と電機子巻線との間の相対的な位置を検出する態様に関し、別途設けた位置検出手段によって検出する態様のもつ不都合を解消すべく、その態様に換えて、電機子巻線に誘起される速度起電力によって検出する態様を採用すること」(審決書4頁20行~5頁5行)との記載があることは、当事者間に争いがない。

また、引用例発明2が、無整流子電動機の従来の位置検出装置に用いられる検出素子において、特に高速回転を行う際に特性の不揃いにより運転特性の相当な悪化を招くという欠点と、結線の複雑さという欠点があったことから、これらの欠点を除いた位置検出装置を提供することを目的とするものであることは、当事者間に争いがない。

さらに、引用例2(甲第4号証)には、「このような事情に鑑みて最近、界磁極と電機子巻線との間の相対的位置を電機子巻線に誘起される速度起電力から検出する方式が考えられている。この方式によれば検出素子を必要とせず不ぞろいのない正確な検出信号を出力させ、また電動機本体からの引き出し線も最小におさえられるものである。」(同号証2頁右上欄3~9行)と記載されている。

これらのことによれば、引用例発明2は、従来の無整流子電動機の位置検出装置に用いられる検出素子において、複数個の検出素子を使用することから、特性を揃えることが困難であり、特に高速回転を行う際に特性の不揃いにより運転特性の相当な悪化を招くという欠点と、複数個の引出し線が必要となって結線が複雑になるという欠点があったことから、これらの技術課題を解消することを目的として、界磁極と電機子巻線との間の相対的位置を、電機子巻線に誘起される速度起電力から検出する方式を採用し、この結果、検出素子を必要とせず不揃いのない正確な検出信号を出力させ、また電動機本体からの引出し線も最小におさえられるという効果を達成したものと認められる。

原告は、引用例発明2は、位置検出装置の制御電極制御装置の処理の内容が記載されていないために、固定点(甲第4号証4頁第5図のP点)の判断からどのようにして切換え信号(制御信号)を求めるのか不明であると主張する。

しかし、引用例2には、固定点であるP点に関し、「第5図は正常な運転時における巻線端子電圧の1つであり、実線は無負荷時、点線は負荷時の波形である。負荷時には巻線の抵抗降下IRが生じて波形は無負荷時と異なつてくるが図中P点は負荷時、無負荷時にも変わらぬ固定点である。このP点は電源電圧Eに対してE/2の電位で電流の通電していない区間αの中点である。そこでこのP点を検出の対衆点(注、「対象点」の誤り。)とすれば負荷の大小によつて変動しない安定な信号を得ることができる。」(甲第4号証2頁右下欄15行~3頁左上欄5行)と記載されており、この記載及び第5図(同号証4頁)によれば、切換え信号を求めるために負荷時、無負荷時にも変わらぬ固定点Pを設けることとし、この固定点であるPが非通電の区間の中点となるような時点で通電と非通電とを切り換えることが、明瞭に開示されており、具体的な実施のための構成が示されていないからといって、切換え信号を求めること自体が技術的に不可能となるものではないから、上記主張は採用できない。

また、原告は、引用例発明2の通電組合せの切換えの構成は、通電、非通電の全区間にわたる端子電圧VA、VB、VCと中性点電圧VNとの犬小を各々比較して出力された比較信号C1、C2、C3を処理し、それによって得られる信号により固定子巻線の通電組合せを切り換えるものであり、通電、非通電の全区間にわたる端子電圧と中性点電圧との比較に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換える構成であるから、本願発明の「非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換える」構成とは、明確に相違すると主張する。

しかし、引用例2には、固定子巻線の通電組合せの切換えに関し、「第6図(a)は負電源側を基準(OV)とした電機子巻線のA相端子電圧VAと電機子巻線の中性点電圧VNである。中性点電圧VNも負荷によつて第6図(d)のように変化するがP点は固定されているのでVAVNを比較することによつて第6図(b)に示す様に負荷の大小により変動をすることなく常にP点でON、OFFの動作をする。更にこの第6図(b)の比較信号に基づきSCR群の制御信号第6図(c)を発生させることによつて電動機の安定な運転が可能となる。」(甲第4号証3頁左上欄6~16行)と記載されており、この記載並びに第6及び第7図(同号証4、5頁)によれば、通電組合せを切り換える時点での端子電圧VA、VB、VCのそれぞれは、いずれも他の二相と異なり非通電の状態にある固定子巻線に生じる誘起電圧のことであり、これと固定子巻線の非通電の区間の中点Pの電圧とを比較して切換え信号を得ているのであるから、結局、引用例発明2も、本願発明と同様に、非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換えるように構成しているものと認められる。したがって、原告の主張は、誤りであって採用することができない。

さらに、原告は、引用例発明2は、その発明の目的、構成及び作用効果が極めて不明瞭のため、特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていないとして、審査段階で拒絶理由通知を受けたものであり、明細書の補正や図面の追加のない状態においては、引用例発明2が実施可能な程度に記載されているとみることはできないと主張する。

しかし、上記のとおり、引用例発明2の目的、構成及び作用効果は、すべて引用例2の明細書及び図面に明瞭に開示されており、その出願された発明自体が各特許要件を具備するか否かはともかくとして、当業者は、それを1つの技術思想として把握し特許法29条に規定される発明として理解することが可能なものといえるから、原告の上記主張を採用する余地はない。

以上のことからすると、審決が、引用例発明2について、「“無整流子電動機における回転位置に応じた位置検出信号を生成する態様に関し、別途設けた位置検出手段の出力によって生成する態様のもつ不都合を解消すべく、その態様に換えて、非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧によって生成する態様を採用すること”が実質的に記載されている。」(審決書5頁11~17行)、「回転位置に応じた位置検出信号を非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧によって生成する態様が記載されているし、さらに、その態様を、引用例1に記載された発明におけるような別途設けた位置検出手段の出力によって生成する態様のもつ不都合を解消すべく、それに換えて採用することも記載されている」(審決書7頁12~18行)と認定したことは、いずれも正当といわなければならない。

3  取消事由3(引用例発明1及び2の組合せの困難性)について

本願発明と引用例発明1との相違点について、審決が、「本願発明が、その『回転位置に応じた位置検出信号』を「非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧」によって生成しているのに対し、引用例1に記載された発明は、その『回転位置に応じた位置検出信号』を、“位置検出用ロータ5、位置検出用1次側コイル9、11、13、2次側コイル10、12、14等”、すなわち、‘別途設けた位置検出手段’の出力によって生成している点で相違している。」(審決書7頁1~9行)と認定したことは、当事者間に争いがない。

また、引用例発明2が、前示のとおり、無整流子電動機の従来の位置検出装置に用いられる検出素子において、特に高速回転を行う際に特性の不揃いにより運転特性の相当な悪化を招くという欠点と、結線の複雑さという欠点があったことから、これらの欠点を除くことを目的とするものであることも、当事者間に争いがなく、このことは、引用例2の記載(甲第4号証2頁左上欄4行~同頁右下欄9行、同頁右下欄6~13行)上も認められるところである。

そうすると、従来の位置検出装置を採用した無整流子電動機である引用例発明1について、引用例発明2が開示する「結線の複雑さ」の解消の観点から、引用例発明2の位置検出装置の構成を採用してみることは、当業者にとって、適宜なし得る程度のことといわなければならない。

原告は、引用例2の上記記載からすると、引用例発明1の実施例の装置が機能上重点をおいている低速回転時においては、検出素子に多少不揃いがあっても運転特性への影響は少ないと解され、位置検出装置の置換えは不必要と理解されると主張する。

しかし、審決が認定した引用例発明1が、低速回転時のみを前提とする構成でないことは、前示のとおりであるし、仮に、運転特性への影響の観点からみると、当業者にとって位置検出装置を置き換えることの動機づけが弱いものであるとしても、上記の「結線の複雑さ」の解消の観点から引用例発明1の無整流子電動機において、引用例発明2の位置検出装置を採用することは、当業者が容易に想到できるものであるから、原告の上記主張を採用することはできない。

また、原告は、引用例発明2が技術課題の対象とする高速回転時には、引用例発明1の誘起電圧が常に一相に生じるのに対し、引用例発明2の検出回路は、二相にわたって生じる点で相違するから、引用例発明2の位置検出装置は、引用例発明1の指摘する運転特性の効率化と関係がないと主張する。

しかし、前示のとおり、引用例発明2は、高速回転時に限定することなく、複数の検出素子を用いることによる運転特性の悪化と結線の複雑さを技術課題の対象とするものであるから、上記主張は、その前提において誤りであるとともに、引用例発明2において、通電切換えの信号を得るための誘起電圧は、通電されない一相に生じるのであるから、この点においても誤りであって、上記主張は、到底採用することができない。

さらに、原告は、引用例発明1の実施例の特徴的機能は、ワウフラッタの低減であることが明らかであるところ、その低減方法は、電圧電流変換器を用いるものであるから、この電圧電流変換器は、必須の構成要素と考えられるが、この特徴的機能を前提として引用例発明2の位置検出装置を置き換えるには、新たな回路設計が必要であり、当業者にとって容易なこととはいえないと主張する。

しかし、前示のとおり、引用例発明2に明確に開示される「結線の複雑さ」の解消の観点からみれば、引用例発明1の無整流子電動機において、引用例発明2の位置検出装置を採用することは、当業者が容易に想到できるものであるから、ワウフラッタの低減の観点からのみ、その採用が困難であるとする原告の主張は誤りというほかない。そもそも、引用例発明1のテープレコーダにおいて、ワウフラッタの低減は常に一般的な技術課題ではあるが、引用例発明1はこのことを解決すべき明示の課題としているわけではなく、電圧電流変換器が必須の構成要素となるものではないし、審決も、前示のとおり、引用例発明1として、トランジスタQ13を取り除いたモータの構成を摘示しているのであって、この発明がワウフラッタの低減を直接の目的とするものでもない。したがって、原告の上記主張は、到底採用することができない。

したがって、審決が、「引用例1に記載された発明における前記態様に換えて、引用例2に記載された前記態様を採用して本願発明をなすことは、前記のような別途設けた位置検出手段の出力によって生成する態様のもつ不都合を解消したいという要請次第であり、これを要するに、設計上の必要に応じて当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。」(審決書7頁18行~8頁5行)と判断したことに、誤りはない。

4  顕著な作用効果の看過(取消事由4)について

以上のとおり、引用例発明1の15歯の固定子巻線を有する無整流子電動機において、引用例発明2の位置検出装置を採用することは、当業者が容易に想到できるものといえ、そのように構成された総合発明が、原告が本願発明の有する顕著な作用効果として主張するところの、従来の歯数が3歯のものよりも誘起電圧を大きく取り出せるという効果を奏するであろうことも、当業者が、容易に予想できる範囲内のものといえる。

これに対し、原告は、本願発明が歯数6本又は9本とする場合において最も有効に誘起電圧を取り出すことができ、低速回転時や急激な負荷増加で回転数が低下したときでも安定したゲート信号を得ることが可能であり、固定子巻線への通電を確実に制御できるという作用効果を有すると主張する。

しかし、本願発明の要旨は、固定子巻線の歯を「3×n(nは2以上の整数)」とするものであり、歯数を6又は9に限定するものでないことは明らかであるから、原告の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかない失当なものであり、到底採用することができない。

したがって、審決が、「全体としてみた本願発明の効果も、各引用例に記載された発明から当業者であれば予想できる程度のものである。」(審決書8頁6~8行)と判断したことに、誤りはない。

5  以上のとおり、原告主張の取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成4年審判第21013号

審決

大阪府守口市京阪本通2丁目5番5号

請求人 三洋電機株式会社

群馬県邑楽郡大泉町坂田1丁目1番1号 三洋電機株式会社 情報機器事業本部

代理人弁理士 安富耕二

群馬県邑楽郡大泉町坂田1丁目1番1号 三洋電機株式会社 半導体事業本部

代理人弁理士 岡田敬

昭和57年 特許願 第228893号「無整流子竜動機」拒絶査定に対する審判事件(平成6年3月23日出願公告、特公平 6-22390)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和57年12月27日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。

「永久磁石を有する回転子と、この回転子に回転磁界を与える複数の歯と、夫々の歯に巻かれた三相の固定子巻線とを有すろ無整流子電動機において、固定子巻線の通電組合せを非通電となる相が常に1相生じるように組合せ、回転子の回転時に非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧に基づいて固定子巻緑の通電組合せを切り換えるように構成し、前記歯の数を3×n(nは2以上の整数)に構成すると共に、前記固定子巻線を隣同士の歯が異相で、かつ全波通電が可能に三相結線することを特徴とする無整流子電動機。」

これに対して、当審における特許異議申立人キム ジョン ウィが甲第1号証として提示した本願出願前国内において頒布された刊行物である特開昭54-125418号公報(以下、「引用例1」という。)には、

“界磁マグネット2を有するロータ1と、このロータ1に回転磁界を与える15(3×5)個の突極と、夫々の突極に巻かれた三相の駆動コイルX1、Y1、Z1………X5、Y5、Z5とを有する電子整流子モータ(特に、第1頁右欄末行~第2頁第3欄第6行、図面第1図)において、駆動コイルX1、Y1、Z1………X5、Y5、Z5の通電組合せを非通電となる相が常に1相生じるように組合せ(特に、第2頁第5欄末行~同頁第6欄第5行、図面第3図(a))、ロータ1の回転時に位置検出用ロータ5、位置検出用1次側コイル9、11、13、2次側コイル10、12、14等によって生成された回転位置に応じた位置検出信号に基づいて前記駆動コイルの通電組合せを切り換えるように構成し(特に、第2頁第3欄第7行~同頁第4欄末行、図面第2図)、前記駆動コイルを隣同士の歯が異相で(特に、図面第1図)、かつ全波通電が可能に三相結線する(特に、第2頁第5欄末行~同頁第6欄第5行、図面第2図、第3図(a))ことを特徴とする電子整流子モータ。”

が実質的に記載され(なお、請求人は、引用例1に記載されたものは、「トランジスタQ13の操作による利用コイル(固定子巻線)の全波通電と半波通電との切換え制御に関するものである」(答弁審第3頁第27~28行)として、それ以外のものが引用例1に記載されていないかのように捉えているが、引用例1には、そのようなものはもとよりのこと、本願発明の「実施例」として示される「全波通電」だけをするものも、いわゆる従来技術として、具体的には第1頁第2欄第4~5行、第3頁第7欄第2~4行の記載、図面第2図の点線で囲まれた態様等が示唆するように記載されているのである。)、また、同じく甲第2号証として提示した本願出願前国内において頒布された刊行物である特開昭52-29917号公報(以下、「引用例2」という。)には、

“無整流子電動機における界磁極と電機子巻線との間の相対的な位置を検出する態様に関し、別途設けた位置検出手段によって検出する態様のもつ不都合を解消すべく、その態様に換えて、尾機子巻線に誘起される速度起動力によって検出する態様を採用すること”(特に、第1頁左欄下から5行~2行、第2頁上左欄第14行~同頁上右欄第2行、第2頁下右欄第6~13行、第3頁上右欄第8~14行、図面第7図、第8図)

換言すると、

“無整流子電動機における 回転位置に応じた位置検出信号を生成する態様に関し、別途設けた位置検出手段の出力によって生成する態様のもつ不都合を解消すべく、その態様に換えて、非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧によって生成する態様を採用すること”

が実質的に記載されている。

そこで、本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、後者における“界磁マグネット2”、“ロータ1”、“突極”、“駆動コイルX1、Y1、Z1……X5、Y5、Z5”、“電子整流子モータ”が、前者における「永久磁石」、「回転子」、「歯」、「固定子巻線」、「無整流子電動機」にそれぞれ対応するものであることは明らかであるし、また、両者とも、『回転子の回転時に回転位置に応じた位置検出信号に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換えるように構成し』ていることは明らかであるから、結局のところ、両者は、

『永久磁石を有する回転子と、この回転子に回転磁界を与える複数の歯と、夫々の歯に巻かれた三相の固定子巻録とを有する無整流子電動機において、固定子巻線の通電組合せを非通電となる相が常に1相生じるように組合せ、回転子の回転時に回転位置に応じた位置検出信号に基づいて固定子巻線の通電組合せを切り換えるように構成し、前記歯の数を3×n(nは2以上の整数)に構成すると共に、前記固定子巻線を隣同士の歯が異相で、かつ全波通電が可能に三相結線することを特徴とする無整流子電動機。』

の点で一致し、本願発明が、その『回転位置に応じた位置検出信号』を「非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧」によって生成しているのに対し、引用例1に記載された発明は、その『回転位置に応じた位置検出信号』を、“位置検出用ロータ5、位置検出用1次側コイル9、11、13、2次側コイル10、12、14等”、すなわち、‘別途設けた位置検出手段’の出力によって生成している点で相達している。

よって、その相違点を検討すると、引用例2には、その相違点をなす本願発明の態様、すなわち、回転位置に応じた位置検出信号を非通電の固定子巻線に生じる誘起電圧によって生成する態様が記載されているし、さらに、その態様を、引用例1に記載された発明におけるような別途設けた位置検出手段の出力によって生成する態様のもつ不都合を解消すべく、それに換えて採用することも記載されているから、引用例1に記載された発明における前記態様に換えて、引用例2に記載された前記態様を採用して本願発明をなすことは、前記のような別途設けた位置検出手段の出力によって生成する態様のもつ不都合を解消したいという要請次第であり、これを要するに、設計上の必要に応じて当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。

そして、全体としてみた本願発明の効果も、各引用例に記戴された発明から当業者であれば予想できる程度のものである。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年4月27日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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